50代になって、定年後の暮らしを具体的に考えるようになりました。
前回、定年前後の収入を3段階に分けて棚卸ししたら、次に考えなければならないものがはっきりしました。
住宅ローンです。
わが家のローンは、定年を迎えたら自動的になくなるわけではありません。かといって、「定年後まで残るなら失敗だ」と焦って一括返済するのも違う気がしています。
繰上返済をするのか。退職金を使うのか。新NISAで続けている月10万円の積立との優先順位をどうするのか。
今回は、どれかを正解にするのではなく、まず判断に必要な材料を同じテーブルに並べてみます。
正直に言うと、これまで住宅ローンについて深く考えることを、どこかで先送りにしてきました。今回、収入を棚卸しした流れで向き合ってみると、漠然と抱えていた不安の正体を、自分の言葉で確認しておきたいと思うようになりました。
この記事は、住宅ローンや投資に関する一般的な制度と、筆者自身の検討過程をまとめたものです。個別の返済・投資・税務判断を勧めるものではありません。契約条件や税制の適用は、借入先、契約書、国税庁などでご確認ください。
シリーズ3本で先送りしてきた住宅ローンの課題
この問題は、急に出てきたわけではありません。
定年準備シリーズ第1回で会社を辞めるための条件を書き出したとき、住宅ローンはすでに大きな課題の一つでした。
ただ、その時点では収入の見通しも曖昧なまま。ローンだけを切り離して考えても、自分に合う答えは出せません。
そこで第3回では、これからの収入を次の3段階に分けました。
- 今の会社員収入
- 働き方を変えた後の収入
- 年金生活に入った後の収入
住宅ローンを考えるなら、残高だけでなく「どの収入の時期まで、毎月いくら返すのか」を重ねる必要があります。
第1回を公開してから、金融機関に相談したり、繰上返済の試算をしたりといった具体的な行動は、正直まだ起こせていません。ただ、副業を軌道に乗せて、その利益を繰上返済の原資に回せないか、という思いはあります。もっとも、第3回で書いたとおり、副業は今のところ赤字で、育成中の段階です。原資として当てにできる状態ではありません。
「平均完済年齢」より、自分の返済終了時期を見る
住宅ローンについて調べると、「平均完済年齢は70代」という説明を見かけます。
けれども今回、公的資料をたどった範囲では、全国の利用者が実際に完済した年齢の最新平均値は確認できませんでした。
よく引用される数字には、借入時の平均年齢と予定返済期間を足した計算も含まれます。繰上返済や途中売却などを反映した実際の完済年齢とは限りません。
そのため、この記事では「平均は何歳だから安心」「何歳だから危険」という使い方はしません。
一方、定年後も住宅ローンを返している人がいることは、公的調査から確認できます。
内閣府「令和6年度 高齢者の経済生活に関する調査」は、全国の60歳以上を対象に、有効回答2,188人を集めた調査です。このうち持家に住む1,788人に1カ月あたりの住宅ローン返済額をたずねたところ、返済額が0円ではなかった162人の平均は月9万3,000円でした。
これは60歳以上全体の平均でも、50代の将来負担を予測する数字でもありません。「60歳を過ぎても返済中の人がいる」と理解するための資料です。
また、住宅金融支援機構の2026年1月調査では、2025年4月から9月に住宅ローンを借りた1,237人のうち、返済期間「30年超〜35年以内」が38.9%で最も多くなっています(前回調査の45.8%からは減少)。こちらも借入時点の予定期間であり、実際の完済年齢ではありません。
大事なのは、平均を探し続けることより、わが家の返済予定表を見ることでした。
わが家は2019年6月に新築で購入し、35年ローンを組みました。契約から7年ほどが過ぎ、残りの返済期間はおよそ28年です。予定どおりに返済が進んだ場合、完済は定年後。単純に数えると、完済時には私は80代になっている計算です。
50代で最初に確認したい6つの判断軸
住宅ローンを「返すか、運用するか」の二択にする前に、確認したいことを6つに分けました。
| 判断軸 | 確認すること |
|---|---|
| 完済時期 | 予定どおりなら定年前か、定年後か |
| 退職後の収支 | 給与が減った後や年金生活でも、毎月返済を続けられるか |
| 手元資金 | 生活予備費、住まいの修繕費、医療や介護への備えを残せるか |
| 金利 | 変動・固定などの契約と、金利が変わった場合の返済額 |
| 税制と保障 | 住宅ローン控除の残り期間と、団体信用生命保険の保障内容 |
| 気持ち | 借金が残る不安と、現金が減る不安のどちらが大きいか |
この6つは、どれか一つだけ見ても結論が出ません。
たとえば、繰上返済で利息が減っても、急な修繕に使う現金まで減らせば安心とは言えません。反対に、運用資産があっても、毎月返済が退職後の家計を圧迫するなら見直しが必要です。
繰上返済で変わること、変わらないこと
J-FLECの用語集では、繰上返済したお金が元金に充てられ、その元金に対応する将来の利息がなくなると説明されています。
一般的な方法は、次の2つです。
期間短縮型
毎月の返済額を原則変えず、返済期間を短くする方法です。完済時期を前倒ししたい場合の候補になります。
返済額軽減型
返済期間を原則変えず、毎月の返済額を減らす方法です。退職後の月々の負担を下げたい場合の候補になります。
手数料、最低返済額、手続方法は金融機関や商品で異なります。まず借入先の条件を確認する必要があります。
そして、繰上返済をしても、家の修繕費や日々の生活費が減るわけではありません。変わるのはローンの条件であって、老後に必要なお金の全体ではない。この点は忘れないようにしたいところです。
住宅ローン控除は実行前に確認する
住宅ローン控除の適用中なら、返済期間にも注意が必要です。
国税庁の質疑応答事例では、繰上返済後の償還期間によっては、住宅ローン控除の対象外になる場合があると案内されています。適用は借入日や契約、残りの償還期間などで変わるため、「利息が減る金額」だけで実行日を決めるのは早そうです。
わが家では、繰上返済をこれまで一度もしたことがありません。理由は単純で、まとまった資金がなかったからです。毎月の返済額から少しずつ前倒しするより、ある程度まとまった額を用意してから一気に返したい——この考え方は、後述する新NISAとの優先順位にもつながっています。
わが家のローンは変動金利です。契約した当初から、金利が動く可能性は分かっていたつもりでした。ただ、正直に言うと、ここまで急に上がるとは思っていませんでした。ここ数年の金利上昇のニュースを見るたびに、想定が甘かったのではないかと感じています。具体的な金利や返済額の変化はここでは書きませんが、「変動金利を選んだこと自体が正しかったのか」は、今も自分の中で答えが出ていません。
退職金で一括返済する前に、残すお金を考える
退職金で住宅ローンを完済すれば、ローンの将来利息と毎月の返済はなくなります。
数字だけを見れば、すっきりします。
ただし、退職金は一度返済に使うと、生活費として自由に戻せません。50代以降には、家の修繕、家電の買い替え、医療や介護など、時期を読みにくい支出もあります。
考える順番は、「退職金でいくら返せるか」より先に、「返した後、いくら残す必要があるか」かもしれません。
確認したいのは、少なくとも次の項目です。
- 退職後から年金受給までの生活費
- 年金生活に入った後の毎月の不足額
- 住まいの修繕や大型家電の買い替え
- 病気や介護などへの予備費
- 完済後に終了する団信の保障
- 住宅ローン控除が残っている場合の条件
すべてを一括返済する以外にも、一部だけ返して返済期間や月額を見直す、手元資金を確保して予定どおり返す、といった考え方があります。
どれが合うかは、退職金額ではなく、退職後の収支と必要な現金を一緒に見なければ決められません。
退職金については、もともと「これで返す」という前提であまり計算に入れてきませんでした。第3回で書いたとおり、わが家では退職金の受け取り方すらまだ確認できていません。金額も受け取り方も分からないものを一括返済の原資として当てにするのは、順番が違うと感じています。まずは制度の内容を確認することが先だと考えています。
新NISA月10万円と繰上返済をどう比べるか
わが家では、新NISAで月10万円の積立を続けています。
では、その10万円を住宅ローンの繰上返済に回した方がよいのでしょうか。
この比較で気をつけたいのは、住宅ローン金利と投資の期待リターンだけを並べないことです。
金融庁「資産形成の基本」では、投資商品には元本割れのおそれがあり、安全性・収益性・流動性のすべてに優れた金融商品はないと説明されています。長期・積立・分散は値動きと付き合う基本ですが、利益を約束するものではありません。
一方、繰上返済は契約金利に応じて将来利息を減らせますが、返したお金は原則として自由に引き出せません。
| 比べる点 | 繰上返済 | 新NISAで積立を続ける |
|---|---|---|
| 効果 | 契約金利に応じた将来利息が減る | 運用結果は確定せず、元本割れもある |
| 手元資金 | 返済した資金は原則戻せない | 売却できるが、必要時に値下がりしている可能性がある |
| 毎月の家計 | 方法により期間短縮または返済額軽減 | 住宅ローンの返済は続く |
| 税制 | 住宅ローン控除の条件確認が必要 | 制度内の運用益は非課税 |
| 保障 | 完済した分のローン残高には団信が残らない | ローンが残る間は契約に応じた団信が続く |
| 気持ち | 借金が減る安心 | 現金・運用資産を持つ安心 |
年金を受け取る前後の資産については、iDeCoの出口を考えた記事でも整理しました。住宅ローンも同じで、一つの制度だけを有利に見せず、受け取る時期・使う時期まで並べる必要があります。
今のところ、わが家は新NISAの月10万円の積立を優先しています。理由は、毎月の返済額から少しずつ前倒しするより、まとまった資金をつくってから一気に繰上返済したいという考え方があるからです。これは、前述した「繰上返済をこれまでしてこなかった理由」とも同じ発想です。
ただ、正直に書くと、これでいいのか今も迷っています。わが家のローンは変動金利です。金利が上がれば毎月の返済額は増えますし、運用している資産の値動きは自分で選べるものではありません。返済の負担が増える時期と、資産が目減りする時期が重なる可能性もあります。新NISAを続けながら変動金利のローンを抱えるというのは、そういう組み合わせでもある、ということです。
先に挙げた住宅金融支援機構の調査では、2025年4月から9月に住宅ローンを借りた人の75.0%が変動型を選んでいます。変動金利を選ぶこと自体は、少なくとも珍しい選択ではないようです。ただ、多くの人が選んでいることは、わが家にとって最適だと確かめられたことにはなりません。この優先順位を「これで確定」と言い切れる段階にはまだなく、迷いながら続けているというのが正直なところです。
団信は「ローン残高に付く保障」として確認する
団体信用生命保険、いわゆる団信も、繰上返済を考えるときの確認項目です。
住宅金融支援機構の団体信用生命保険の案内では、加入者に契約上の保障事由が生じた場合、残りの住宅ローンが弁済される仕組みが説明されています。
ただし、死亡、身体障害、疾病など、どこまでが対象になるかは契約によって異なります。「団信に入っているから何でも保障される」とは言えません。
そして住宅ローンを完済すれば、その残高に付いていた保障も終わります。
だからといって、団信を残すためにローンを返さない方がよい、という話でもありません。今の保障内容、ほかの生命保険、手元資産、家族に残る収入を合わせて考えるものです。
団信については、保障の内容を確認しています。ただ、繰上返済をするかどうかを考えるうえで、団信の存在をそれほど重視してはいません。完済すれば保障が終わること自体は理解していますが、それを理由に返済ペースを変えようと考えたことは、これまでありませんでした。
今の私が決めるのは「結論」ではなく次の確認
住宅ローンは金額が大きいので、一度に正解を出したくなります。
でも、今の私に必要なのは「完済するか、投資を続けるか」という結論ではなく、次の確認を一つずつ終わらせることです。
- 返済予定表で、完済時期・金利タイプ・毎月返済額を確認する
- 退職後の収入表に、住宅ローン返済を重ねる
- 住宅ローン控除の残り期間と条件を確認する
- 生活予備費と住まいの修繕費を分けて置く
- 団信の保障範囲を、契約書であらためて読み直す
- 繰上返済した場合と、そのまま返した場合を同じ条件で比べる
現在残高をブログで公開しなくても、この確認はできます。
読者のみなさんも、ネットの平均値だけで焦る前に、まず自分の返済予定表を一度開いてみてください。もし返済の継続が難しくなりそうなら、延滞する前に借入先へ相談することが大切です。
今の私にできる次の一歩は、まず返済予定表を自分の目で確認し直すことです。そのうえで、副業が軌道に乗ってきたら、その利益の一部を繰上返済に回せないか考えていきたいと思っています。ただし副業はまだ黒字化していない段階なので、これはあくまで「軌道に乗れば」という前提つきの話です。
まとめ|住宅ローンは「平均」ではなく、わが家の条件で考える
50代で住宅ローンが残っていると、「定年までに返さなければ」と焦ります。
けれども、繰上返済、退職金での一括返済、新NISAの継続は、それぞれ効果とリスクの種類が違います。
- 完済予定は定年前か、定年後か
- 退職後の収入で毎月返済を続けられるか
- 返済後も生活予備費と修繕費を残せるか
- 住宅ローン控除と団信の条件はどうなるか
- 借金が残る不安と、現金が減る不安のどちらが大きいか
まず、この5つを同じ紙に書く。
私も、残高そのものに目を奪われるのではなく、定年後の暮らし全体から住宅ローンを考えていきます。
今回整理してみて分かったのは、結論はまだ出せない、ということでした。完済は定年後になる見込みで、繰上返済の経験もなく、退職金もあてにしていません。今は新NISAでの積立を優先していますが、変動金利のローンを抱えながら運用を続ける以上、返済額が増える時期と資産が目減りする時期が重なる可能性があることも意識しています。次に確認すべきことははっきりしているので、まずはそこから一つずつ潰していきます。
定年準備は、一つの大きな決断ではなく、小さな確認の積み重ねです。第1回からの経緯は「50代、会社を辞める前に始めた7つの準備」にまとめています。
筆者の働き方や、このブログで発信していることは運営者プロフィールをご覧ください。
参考にした公的資料
- 内閣府「令和6年度 高齢者の経済生活に関する調査」
- 住宅金融支援機構「住宅ローン利用者の実態調査【2026年1月調査】」
- 国土交通省「令和6年度 民間住宅ローンの実態に関する調査」
- J-FLEC「繰上げ返済」用語集
- 国税庁「繰上返済等をした場合の償還期間」
- 金融庁「資産形成の基本」
- 住宅金融支援機構「団体信用生命保険」
本記事は、住宅ローンや投資に関する一般的な制度と、筆者自身の検討過程をまとめたものであり、金融・税務・投資に関する助言ではありません。記載の制度内容は執筆時点の情報に基づいており、正確性・最新性を保証するものではありません。制度や税制、保障内容は変更される場合があり、契約によって異なります。個別の返済・投資・税務判断は、必ず借入先の金融機関、ファイナンシャルプランナー(FP)、税理士等の専門家、または国税庁・金融庁等の公式情報でご確認のうえ、ご自身の判断で行ってください。

